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岡山地方裁判所 平成4年(行ウ)10号 判決

岡山県玉野市和田三丁目二九番三号

原告

川崎宣勝

右訴訟代理人弁護士

山崎博幸

岡山県玉野市宇野二丁目四番一二号

被告

玉野税務署長 馬本典紀

右指定代理人

富岡淳

大北貴

土田哲郎

青井好博

伊奈垣光宏

戸田哲弘

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告の原告に対する平成四年七月九日付け異議申立棄却決定(原告の昭和六三年度分、平成元年度分及び平成二年度分の各所得税に対する平成四年二月二八日付けの更正処分並びに過少申告加算税賦課決定に係るもの)を取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  被告は、原告の昭和六三年度、平成元年度、平成二年度の所得税に関し、別表「申告額」記載のとおりの確定申告に対し、平成四年二月二八日付けで別表「更正処分」記載のとおり各更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下「原処分」という。)をした。

2  原告は、被告に対し、平成四年一三日、原処分を不服として異議を申し立て、被告は、同年七年九日、右異議申立を棄却する旨決定(以下「本件決定」という。)し、即日、右決定書の謄本を原告に送達した。

3  被告は、原告から国税通則法(以下「通則法」という。)八四条一項に基づく口頭による意見陳述(以下「口頭意見陳述」という。)の申立てがあったにもかかわらずその機会を与えずに本件決定をした(通則法八四条一項及び憲法三一条に違反する。)。

よって、本件決定の取消を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1は認める。

2  同2は認める。

3  同3は否認する。被告は、平成四年七月八日午後一時三〇分ころから同日午後五時一〇分ころまでの間、原告に口頭意見陳述の機会を与えた(原告は陳述しなかった。)。

第三証拠

本件記録中の証拠目録のとおりである。

理由

一  請求原因について

1  請求原因1について

争いがない。

2  同2について

争いがない。

3  同3について

(一)  前記争いのない事実、甲五ないし一一、一七、乙二、三号証、原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

原告は、被告に対し、平成四年四月一三日、原処分につき通則法七五条一項一号に基づいて異議を申し立て、同年六月一七日、通則法八四条一項の口頭意見陳述の申立てをし、その際申立書に、意見陳述は同年七月八日午後一時三〇分より申立人(原告)宅において行う旨記載するとともに、意見陳述人として原告及び代理人一〇名の名前を掲記した。これに対し被告は、期日及び場所につき原告と調整したうえで、同年六月二三日、同年七月八日午後一時三〇分から玉野税務署会議室において口頭意見陳述を行う旨原告に通知した。

原告は、代理人一三名とともに、右日時に玉野税務署会議室に出頭した。被告の職員である岡村正貴調査官及び守屋鉄夫事務官(以下「岡村ら」という。)は、原告及び前記代理人のうち事前に委任状が提出されていた一〇名(以下「代理人ら」という。)に対し、口頭意見陳述の開始を告げた。ところが、原告及び代理人ら(以下「原告ら」という。)は、陳述内容の録取方法について、原告らの陳述内容のすべてを記載した録取書の作成(以下「全文録取」という。)を要求し、その旨約束することを求めた。これに対し岡村らは、同人らが陳述内容の要点を要約して録取し、何が要点であるかは同人らにおいて判断する(以下「要点録取」という。)旨回答し、陳述を始めるよう再度うながしたが、原告らはこの回答に納得せず、陳述を開始しなかった。

中桐稔統括官(以下「中桐」という。)は、岡村らに対し、要点録取でよい旨指示したところ、原告らは、原処分庁の責任者である中桐が異議審理の担当官を命令し指導するのは違法・不当であると抗議し、同人の退室を要求した。

岡村ら及び中桐(以下「中桐ら」という。)は、原告らに対し、意見陳述を開始するよう再三再四うながしたが、原告らは応じなかった。また、中桐らは、原告からが口頭で述べる内容を書いたメモを作成しこれを読み上げるべく持参していたので、右メモの写しを録取書に添付することを提案し右写しの提出を求めたが、原告らはこれを許否した。

以上のようなやりとりの後、結局原告らの陳述は行われないまま、同日午後五時一〇分ころ、中桐は、口頭意見陳述を終了する旨告げた。原告らはこれに抗議し、改めて口頭意見陳述の申立書を提出する旨述べて退出した。原告は、同月九日午前九時ころ、右申立書を被告に提出したが、同日午後三時ころ、本件決定の決定書謄本が原告方に送達された。

(二)  通則法八四条一項は、同法七五条の異議申立てに係る決定手続につき、「異議審理庁は、異議申立人から申立てがあったときは、異議申立人に口頭で意見を述べる機会を与えなけはれならない。」旨規定する。

これを本件についてみると、(一)の認定事実によれば、被告は、原告に対して右意見を述べる機会を与えたことが明らかである。

原告は、原告らの全文録取の要求及び中桐の関与に対する抗議に対し同人らが応じたなかったから、陳述を始めなかったという。しかし、通則法八四条二項は、一項の口頭意見陳述の手続につき、「異議審理庁は、必要があると認めるときは、その行政機関の職員に前項の規定による異議申立人の意見の陳述をきかせることができる。」旨規定し、右以外の口頭陳述の実施回数、時間、陳述録取の方法その他これについて定めた法規はない。全文録取ではなく要点録取とする旨の中桐らの回答はいささかも違法ではない。また、通則法七五条一項の異議申立制度の国税の賦課に関する処分が大量的かつ反復的に行われ、当初の処分が必ずしも十分な資料と調査に基づいてなされ得ない場合があることに照らし、まず、原処分庁に対する不服申立により、事案を熟知している原処分庁自身に再度の調査及び審理の機会を与え、簡易かつ迅速な救済をはかる目的で制定されたものであるから、その性質上、原処分に関与した担当官が異議審理手続に関与することを排除するものではない。

(三)  以上のとおり、本件決定手続は違法ではない。

二  よって、原告の請求を棄却し、訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 池田亮一 裁判官 吉波佳希 裁判官 濱本章子)

別表 申告額

〈省略〉

更正処分

〈省略〉

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